2013年8月11日日曜日

優しい人

私は、人のことを嫌いにはなっても、
軽蔑とか差別することはあまりないと思っている。
だけど、中には何人か、人生の反面教師と言うか、
負の衝撃をくれた人がいる。


数年前の冬の日、私はその人と遊びに出かけた。
まぁ、デートと言っても違いないかと思う。

ふたりである舞台を見に行って、
満ち足りた気持ちで会場を出た時、小さな子がいた。

その子は、親を見失っている様だった。
きょろきょろと辺りを見回し、時折母親を呼んでいた。
ああいうのは大抵放っておくと、泣く。
例え近くに母親が居て、すぐに会えるとしても。

それでもって、私はこういうのを見逃すことが出来ない。
だから、私の隣にいた人に「ちょっと待って」と言った。
「あの子、親探しているから、手伝ってあげよう」と。

そしたら、子どもを一瞥したあの人から、
思いもしなかった一言が返ってきた。

「いいよ、放っておこうよ。すぐ見つかるよ。」

いつも通りの笑顔で、なんの躊躇いも無く、
その人は、そういう風に言った。

私は、あの時、本当にビックリした。
ああ、世の中にはこういう人がいるんだと思った。

今思えば、もし私があの時に冷静だったなら、
本当に、その人のことを思いやれていたなら、
平手打ちをかますくらいのことをすべきだったと思う。
ただ、熱に浮かされていた私は、
そういう自分らしい行動ができなかった。

ただその時に、きっといつかこの人は、
私をこういう風に扱うようになるんだろうと思った。
路頭に迷うような時に、見捨てるんだろうと。
その後、紆余曲折はあったものの、
時間を経て距離を持ち、私はその人を忘れた。

ちなみに、面白かったのは、
一緒に出かけた、ありとあらゆる場所は、
あの大きな地震を機に、どんどん日本から消えて行った。
ちょっとした「エターナルサンシャイン」的な体験…。笑


私は、優しい人が好きだけど、
もっと詳述するなら、その優しさを、
「自分」でなくて「他者」に向けられる人が好きだ。

私自身がそういう人間でないことは分かっているし、
だからこその理想というのも一応言っておく。


とにかく、今思い返しても、衝撃的で、
凄く、酷く低俗な人間性を垣間見た瞬間だった。


きっと、彼は彼で幸せになるでしょう。
私には関係のない、全然違う価値に基づいた幸せの中で、
生きていただければ、それでいいのではないでしょうか。