私は、人のことを嫌いにはなっても、
軽蔑とか差別することはあまりないと思っている。
だけど、中には何人か、人生の反面教師と言うか、
負の衝撃をくれた人がいる。
数年前の冬の日、私はその人と遊びに出かけた。
まぁ、デートと言っても違いないかと思う。
ふたりである舞台を見に行って、
満ち足りた気持ちで会場を出た時、小さな子がいた。
その子は、親を見失っている様だった。
きょろきょろと辺りを見回し、時折母親を呼んでいた。
ああいうのは大抵放っておくと、泣く。
例え近くに母親が居て、すぐに会えるとしても。
それでもって、私はこういうのを見逃すことが出来ない。
だから、私の隣にいた人に「ちょっと待って」と言った。
「あの子、親探しているから、手伝ってあげよう」と。
そしたら、子どもを一瞥したあの人から、
思いもしなかった一言が返ってきた。
「いいよ、放っておこうよ。すぐ見つかるよ。」
いつも通りの笑顔で、なんの躊躇いも無く、
その人は、そういう風に言った。
私は、あの時、本当にビックリした。
ああ、世の中にはこういう人がいるんだと思った。
今思えば、もし私があの時に冷静だったなら、
本当に、その人のことを思いやれていたなら、
平手打ちをかますくらいのことをすべきだったと思う。
ただ、熱に浮かされていた私は、
そういう自分らしい行動ができなかった。
ただその時に、きっといつかこの人は、
私をこういう風に扱うようになるんだろうと思った。
路頭に迷うような時に、見捨てるんだろうと。
その後、紆余曲折はあったものの、
時間を経て距離を持ち、私はその人を忘れた。
ちなみに、面白かったのは、
一緒に出かけた、ありとあらゆる場所は、
あの大きな地震を機に、どんどん日本から消えて行った。
ちょっとした「エターナルサンシャイン」的な体験…。笑
私は、優しい人が好きだけど、
もっと詳述するなら、その優しさを、
「自分」でなくて「他者」に向けられる人が好きだ。
私自身がそういう人間でないことは分かっているし、
だからこその理想というのも一応言っておく。
とにかく、今思い返しても、衝撃的で、
凄く、酷く低俗な人間性を垣間見た瞬間だった。
きっと、彼は彼で幸せになるでしょう。
私には関係のない、全然違う価値に基づいた幸せの中で、
生きていただければ、それでいいのではないでしょうか。