「負け知らず」は二種類いる。
絶えず努力して勝負に勝ち続ける人。
負けることから逃げ続ける人。
私は、多分後者です。
中学二年生の夏。
クラスに、好きな子がいました。
休暇明けの登校日が、その彼の誕生日。
音楽の夏期課題で、
好きな楽器で一曲演奏できるようにする。
というのがあったわけで、
何か意味を込めようと思ったのです。
家にあった一番好きな曲集を開いて、
その彼の部活の背番号を探すと、この曲。
夜想曲 第2番。
毎日毎日、部活から帰って練習。
3分の2くらいしか完璧にできなくて、
それでも一応形にはなって、休暇明け。
名前順の最後から5番目くらいだったから、
なかなか回ってこない発表の番。
募る緊張。
何度も頭の中で、指先で、空気に音をイメージ。
すると、聞こえてきた。
綺麗な綺麗な夜想曲 第2番の音色。
多分、偶然だったのですが、
音大を目指していた天才的な子が、
目の前で、夜想曲を弾きはじめたのです。
最後の最後まで完璧。
指の動きも、余韻の使い方も隙がなかった。
当たり前だけど、私は弾けなかった。
とりあえず「貴婦人の乗馬」を粗雑に弾いて逃げた。
あまり鮮明に覚えてないけれど、多分、そう。
努力したにはしたから、
弾けば良かったのかもしれないけど、
まぁ、できたわけない。
多分それが今でも、きっと。
努力屋さんの「負け知らず」ではない。
間違いなく、そんな強さは無い。