2011年2月5日土曜日

ノクターン

「負け知らず」は二種類いる。

絶えず努力して勝負に勝ち続ける人。
負けることから逃げ続ける人。

私は、多分後者です。




中学二年生の夏。
クラスに、好きな子がいました。

休暇明けの登校日が、その彼の誕生日。

音楽の夏期課題で、
好きな楽器で一曲演奏できるようにする。
というのがあったわけで、
何か意味を込めようと思ったのです。


家にあった一番好きな曲集を開いて、
その彼の部活の背番号を探すと、この曲。

夜想曲 第2番。


毎日毎日、部活から帰って練習。
3分の2くらいしか完璧にできなくて、
それでも一応形にはなって、休暇明け。

名前順の最後から5番目くらいだったから、
なかなか回ってこない発表の番。

募る緊張。
何度も頭の中で、指先で、空気に音をイメージ。


すると、聞こえてきた。
綺麗な綺麗な夜想曲 第2番の音色。

多分、偶然だったのですが、
音大を目指していた天才的な子が、
目の前で、夜想曲を弾きはじめたのです。

最後の最後まで完璧。
指の動きも、余韻の使い方も隙がなかった。


当たり前だけど、私は弾けなかった。

とりあえず「貴婦人の乗馬」を粗雑に弾いて逃げた。
あまり鮮明に覚えてないけれど、多分、そう。

努力したにはしたから、
弾けば良かったのかもしれないけど、
まぁ、できたわけない。

多分それが今でも、きっと。



努力屋さんの「負け知らず」ではない。
間違いなく、そんな強さは無い。