その子はいつも「こころここにあらず」だった。
本当の気持ちに出会った次の日には、
いつもその「強烈な気持ちとの出会い」だけを、
綺麗に忘れてしまっていた。
いつも、本当の気持ちから逃げていた。
そうしてその子は自分を作る事を怠って来た。
厳密にはさぼってなどいないけれど、
ごまかしながらぼんやり生きて来た。
それはそれでいいと思っていた。
何より自身の気持ちとの対峙の怠惰を知っていた。
だけど、その子の周りはそれを良しとしなかった。
決まりを重んじることが表面にだけ「愛」を名乗って、
その子をいつも強く抱きしめていた。
その子の目は前後左右上下についていたことを、
抱きしめた存在は、知らないままだった。
その子は抱きしめられながら周りを見て生きた。
何が正しいか、どこへ行くべきかは、
ぼんやりと分かっていたけれど、
反対にすれば、ぼんやりとしか分からなかった。
全部が曖昧なまま、
いつしか抱きしめていた存在が、気がついた。
「こころここにあらず」。
抱きしめていたのは、モノでしかなかった。
その子の心は、その子にも操れないところにあった。
時を経て、その子は進む事を選ぶ。
心が少し本人に近づいた。
名ばかりの愛から本気で逃げる為に、
進む先に壁があってもいい。と、
その子は逃げる様にして進む事を選んだ。