2012年5月25日金曜日

こころここに

その子はいつも「こころここにあらず」だった。

本当の気持ちに出会った次の日には、
いつもその「強烈な気持ちとの出会い」だけを、
綺麗に忘れてしまっていた。

いつも、本当の気持ちから逃げていた。

そうしてその子は自分を作る事を怠って来た。

厳密にはさぼってなどいないけれど、
ごまかしながらぼんやり生きて来た。


それはそれでいいと思っていた。
何より自身の気持ちとの対峙の怠惰を知っていた。

だけど、その子の周りはそれを良しとしなかった。
決まりを重んじることが表面にだけ「愛」を名乗って、
その子をいつも強く抱きしめていた。

その子の目は前後左右上下についていたことを、
抱きしめた存在は、知らないままだった。

その子は抱きしめられながら周りを見て生きた。
何が正しいか、どこへ行くべきかは、
ぼんやりと分かっていたけれど、
反対にすれば、ぼんやりとしか分からなかった。

全部が曖昧なまま、
いつしか抱きしめていた存在が、気がついた。

「こころここにあらず」。

抱きしめていたのは、モノでしかなかった。
その子の心は、その子にも操れないところにあった。


時を経て、その子は進む事を選ぶ。
心が少し本人に近づいた。

名ばかりの愛から本気で逃げる為に、
進む先に壁があってもいい。と、
その子は逃げる様にして進む事を選んだ。